【奈良×自転車】鹿と歴史を巡るサイクリング。公式ルート「ならクル」を実際に走ってきました

世界遺産の寺社仏閣から雄大な自然まで、数え切れないほどの見どころが点在する奈良県。そんな古都の魅力を自転車で巡るために整備されたのが、全31種類の県公式サイクリングルート「ならクル」です。

本記事では、初心者から上級者まで楽しめる「ならクル」の概要やサポート体制を解説するとともに、実際に「C1 上ツ道ルート」を走った実走レポートをお届け。ペダルを漕いで歴史を遡る、新しい奈良旅の形をご紹介します!

目次

『ならくる』ってなに? 奈良全域を網羅する31のルート

自転車と鹿
奈良公園周辺では、鹿との遭遇も日常茶飯事。これぞ奈良のサイクリング旅!

「ならクル」とは、奈良県が主体となって整備したサイクリングルート「奈良まほろばサイク∞リング」の愛称です。

古都・奈良には、法隆寺や東大寺といった世界遺産から、吉野・大台ヶ原などの雄大な自然まで、数え切れないほどの見どころが点在しています。これらをサイクリングコースとしてシームレスにつなぎ、奈良の魅力を自転車で再発見できる——。

そんなコンセプトのもと、県内全域を網羅するように設定されたルートは、なんと全31種類にも及ぶのです。

ド平坦から激坂まで。バリエーション豊かなルート構成

ならまち
風情ある旧街道をゆったり流すルートもあれば

ならクルのルートは、大きく「C」と「T」の2つに分類されています

「Cルート」は盆地エリアを中心とした平坦基調で、ゆったりとした“自転車散歩”に最適。対して「Tルート」は高原や山間部へ挑む、脚に覚えのあるライダー向けです。

鳥居と自転車
本格的な山岳ルートも!

C・Tともに一つひとつのルートは数キロ〜50km程度とコンパクトですが、これらはルート同士を繋ぎ合わせて走れるよう設計されています。

「今日はC1とT4、T6を繋げてロングライド」「まずは短距離から」といったように、自分の脚力や気分に合わせて自由にルートメイクできるのが、ならクルの醍醐味なんです。

トイレもポンプも完備。県内を網羅する「自転車の休憩所」

サイクルラック
休憩所のひとつ「なら歴史芸術文化村」。サイクルラック完備

ならクルのルート上には、道の駅やコンビニ、観光施設などが「自転車の休憩所」として登録されており、サイクリストの旅をバックアップしてくれます。

ここでは「駐輪スペース」「トイレの利用」「空気入れの貸出」の3点が約束されており、空気入れに関しては、スポーツ自転車で一般的な仏式・米式バルブにも対応。トラブル時や休憩時に気兼ねなく立ち寄れる、ありがたい存在です。

迷子ゼロへ。「ブルーライン」と「デジタルMAP」

ブルーライン
路面に引かれた「ブルーライン」

初めて走る土地では、「この道、合ってるかな?」という迷いがつきもの。しかし、ならクルならその心配はいりません。

路面には道しるべとなる「ブルーライン」が引かれており、交差点では矢印がルートをナビゲート。いちいち自転車を止めてスマホを確認する煩わしさから解放されます。

ならクルの矢印案内
交差点では矢印がナビゲート。地図なしでも安心です

もちろん、データ派への準備も万全です。公式サイトでは、GoogleマップやRide with GPS、Garmin、Stravaに対応したルートデータが無償公開されています。

足元の「ライン」と、手元の「デジタルMAP」。この両輪があれば、初めての土地でも迷うことなく、景色を楽しむことだけに集中できるはずです。

【実走レポ】いにしえの面影残る古道。「C1 上ツ道ルート」を行く

今回走るのは、飛鳥時代に整備された古代官道「上ツ道」の道筋をなぞるルート。

道そのものは現代の舗装路へと姿を変えましたが、かつて都と地方を結んだ要所だっただけあり、沿道には歴史的な寺社仏閣がゴロゴロ転がっています。「ペダルを漕いで歴史を遡る」、そんな感覚に浸れるのがこのルート最大の魅力です。

基本は奈良盆地をゆくフラットな道のりですが、単調なだけではありません。天理から三輪にかけては高台を走るため、大和まほろばの絶景が一望できるご褒美区間も。桜井から明日香方面へ抜けるのどかな風景も相まって、変化に富んだ33kmを楽しめます。

C1 上ツ道ルート

  • 区間: 奈良 → 橿原(奈良公園~橿原神宮)
  • 距離: 約33km
  • 所要時間: 約2時間(走行のみ)/ 4〜5時間(観光・休憩込み)
  • 難易度: ★★☆☆☆(ほぼ平坦で初心者におすすめ)
  • みどころ: 奈良公園、天理の巨大建築、石上神宮、大神神社、橿原神宮

【Start】鹿と愛車のツーショット! 旅の起点は「奈良公園」

旅の起点は、奈良県庁にほど近い「奈良公園」エリアから。ここが「C1 上ツ道ルート」の公式な出発点です。

C1ルートの出発地点
このあたりが出発地点。明確な目印などはありません

視界に飛び込んでくるのは……そう、鹿、鹿、鹿! 歩道を当たり前のように鹿が歩いている光景は、ここ奈良でしか味わえません。まずは安全な場所に停車して、鹿と愛車のツーショットをパシャリ。

鹿と自転車

すぐそばには興福寺の中金堂も鎮座しており、その朱色が古都の情緒を演出。スタート直後から「奈良に来たぞ!」というテンションが最高潮に達します。

興福寺と自転車
興福寺:藤原氏の栄華を今に伝える、古都・奈良を象徴する世界遺産

信号待ちで鹿と目が合う不思議な体験を経たら、いざ南へ。風情ある「ならまち」の路地を抜け、安産祈願で知られる「帯解寺(おびとけでら)」の静かな佇まいを横目に、ペダルは軽快に進んでいきます。

ならまち
ならまち:江戸情緒あふれる古い町並み
帯解寺と自転車
帯解寺:皇室ゆかりの安産祈願所

【Point 1】石上神宮と巨大建築。街並みが異彩を放つ「天理エリア」

奈良市街を南下し天理エリアに入ると、空気感はガラリと変わります。

視界に飛び込んでくるのは、天理教関連の巨大建築群。壮大な建物が建ちならぶ景観はまさに圧巻で、この街ならではの独特な空気感に包まれます。

天理の巨大建築
天理教特有の建築様式「おやさとやかた」。そのスケール感に圧倒されます
天理教教会本部
街の中心に鎮座する天理教教会本部

歴史スポットも負けていません。ルート沿いにある「石上神宮(いそのかみじんぐう)」は、国宝の拝殿を持つ由緒ある古社。

境内には「神鶏」と呼ばれる鶏が放し飼いにされており、コケコッコーという元気な鳴き声が響き渡ります。

石上神宮の神鶏
石上神宮(いそのかみじんぐう):国宝・拝殿を持つ古社。古代の武具を納めた、記紀ゆかりのパワースポット
神鶏
境内を闊歩する「神鶏(しんけい)」。鮮やかな羽色が参拝者を出迎えます

また、この辺りまで来ると東側の山々がグッと近づいてくるのも特徴。迫りくる山並みとのどかな田園風景、そして巨大建築。このユニークな組み合わせこそが、天理エリアを走る面白さです。

田園風景
迫る「大和青垣」の山々と田園風景。日本の原風景に出会う道

【Point 2】大鳥居とそうめん。神の山に抱かれる「三輪エリア」

天理を抜けてさらに南へ進むと見えてくるのが、高さ32メートルを超える大神神社(おおみわじんじゃ)の大鳥居です。

車道をまたぐ鳥居としては日本一の大きさを誇り、その巨大な鳥居を自転車でくぐり抜ける瞬間は、このルートならではのハイライトと言えます。

大神神社の巨大鳥居
高さ32.2mの巨大鳥居

ルートから少し寄り道して、大神神社へ参拝しましょう。ここは日本最古の神社のひとつとされ、最大の特徴は「本殿がない」こと。背後の三輪山そのものをご神体としているため、拝殿を通して山に向かって手を合わせます。

大神神社の拝殿
本殿はなく、拝殿を通して背後の御神体「三輪山」を拝みます

そして、三輪といえば忘れてはならないのが「三輪そうめん」。そうめん発祥の地だけあって、街のいたるところで「そうめん」の看板を目にします。

今回は看板を横目に先を急ぎますが、時間があれば本場の味で補給するのもまた一興でしょう。

そうめんの看板
そうめん発祥の地・三輪。至るところで「そうめん」の文字と出会います

三輪を過ぎれば、ゴールはもうすぐ。ここから橿原神宮へ向かう道中は、のどかな田園風景が広がります。古都の風を感じながら、ラストスパートを楽しみましょう。

のどかな田園風景
三輪から橿原方面へ。古代のロマンを感じる、のどかな田園風景

【Goal】神武天皇を祀る広大な敷地。荘厳なる「橿原神宮」

三輪から南へ走り抜け、ついにゴールの「橿原神宮」に到着です。初代天皇・神武天皇を祀るこの場所は、敷地の広さも、空気の重厚感も別格。入り口の鳥居前で、完走の証として記念撮影を一枚。

橿原神宮の第一鳥居と自転車
ついにゴール! 33kmの旅路を締めくくる、第一鳥居の前で

長い参道を歩き、南神門をくぐり抜けた瞬間、そこは静寂に包まれた別世界。

目の前には玉砂利が敷き詰められた圧倒的な空間が現れ、社殿と背後の畝傍山(うねびやま)が一体となった景色が広がります。33kmを走りきった心地よい疲れとともに、この荘厳な景色を眺めていると、心が洗われるような気分になります。

畝傍山を借景とした橿原神宮
背後の畝傍山(うねびやま)を借景とした、広大で荘厳な空間

参拝を終える頃には、境内にある「深田池」が美しい夕景に染まっていました。水面に映る夕日を眺めながら、今日走ってきた道のりを振り返る……。そんな贅沢な時間を過ごせるのも、自転車旅ならではの特権です。

夕景に染まる深田池
旅の終わりは、夕日に染まる水辺で

実際に走って分かった、C1ルート走行時の注意点

ならクルの矢印案内

まず心に留めておきたいのは、「ならクル」は自転車専用道ではないという点です。

今回走った「C1 上ツ道ルート」も、基本的には一般道をつないで走ります。特に、天理〜桜井間などの幹線道路(国道169号)沿いは大型トラックを含め交通量が多く、車との距離が近くなる場面も少なくありません。

「のどかな古道」といっても、あくまで現代の道路事情の中にあります。交通量の多い区間では無理をせず歩道を利用するなど、十分に注意して走行してください。

また、観光地や商店街など人通りの多い場所では、自転車を降りて押し歩く配慮も欠かせません。「青いラインがあるから」といってかっ飛ばしすぎず、あくまで歩行者や地元の交通優先で、周囲の状況に合わせて安全に楽しむ余裕を持ちましょう

目的別! 他のおすすめルート3選

今回走ったC1以外にも、「ならクル」には個性豊かなルートがたくさんあります。その中から、タイプ別の3つを厳選してご紹介します。

【ツーリング派】奈良から飛鳥へ。44kmの縦断旅「C7 せんとの道ルート」

C7 せんとの道ルート
出典:奈良県

奈良市から飛鳥村へ。平城京、藤原京、飛鳥京という「歴代の都」を時代を遡るように南下していく、ロマンあふれるコースです。

約44kmという距離は、半日のサイクリングにちょうど良いボリューム感。川沿いの平坦な道が多いため、スポーツバイク初心者でも気持ちよく完走できるはずです。

ここが推し!

  • 区間: 奈良 → 飛鳥(奈良市佐保台~明日香村)
  • 距離: 約44km(想定所要時間:2時間54分 ※走行のみ)
  • 難易度: ★★☆☆☆(最大標高差102m。平坦基調で走りやすい)
  • みどころ: 平城宮跡、郡山城跡、藤原宮跡、石舞台古墳

【ポタリング派】仏塔を見上げる由緒ある散歩道「C9 法隆寺ルート」

C9 法隆寺ルート
出典:奈良県

「ガッツリ走るのはちょっと……」という方には、世界遺産エリアを抜けるこのショートコースがおすすめ。JR大和小泉駅を起点に、のどかな田園風景の中を走りながら法隆寺を目指します。

最大の特徴は、法起寺・法輪寺・法隆寺という「斑鳩(いかるが)三塔」をすべて巡れること。三重塔や五重塔が田んぼ越しに見える風景は、まさに日本の原風景です。

ここが推し!

  • 区間: JR大和小泉駅 → JR法隆寺駅
  • 距離: 約7km(想定所要時間:25分 ※走行のみ)
  • 難易度: ★☆☆☆☆(最大標高差29mのド平坦!)
  • みどころ: 小泉城跡、法起寺、法輪寺、法隆寺

【坂バカ派】プロの走りを体感! 「T4 ツアー・オブ・ジャパンルート」

T4 ツアー・オブ・ジャパンルート
出典:奈良県

脚力に自信のある方には、国際自転車ロードレース「ツアー・オブ・ジャパン(TOJ)」の舞台にもなったこの山岳ルートを。奈良市街地から東へ進み、布目ダムのある山添村を目指します。

獲得標高は700mオーバー。「ならクル」最大の高低差を誇る、プロ仕様のタフなコースです! 登り切った後の達成感と、山間の美しい茶畑の風景は、挑戦した人だけが味わえるご褒美。

ここが推し!

  • 区間: 奈良 → 山添(奈良市西紀寺町~山辺郡山添村)
  • 距離: 約25km(想定所要時間:1時間42分 ※走行のみ)
  • 難易度: ★★★★★(獲得標高715mの激坂!)
  • みどころ: 布目ダム、大和高原の茶畑、TOJ周回コース

自転車を持っていなくても大丈夫!充実のレンタサイクル

「自転車を持っていくのは大変……」「観光のついでにサクッとサイクリングしたい」という方は、ぜひレンタサイクルを活用しましょう。奈良県は自転車での観光に力を入れており、ならクルのルート周辺にもレンタサイクル店が点在しています。

なかには、一般的なシティサイクル(ママチャリ)だけでなく、坂道も楽々なE-Bike(電動アシスト)や、長距離に適したクロスバイクを扱っている店舗もあります。

ただし、レンタサイクルを利用する際は、以下の点に注意してください。

レンタサイクル活用のポイント

  • 車種を確認しよう: 10km以上の距離を走るなら、変速機のないママチャリだとかなり疲れてしまいます。スポーツタイプの「クロスバイク」か、坂道も楽な「電動アシスト付き」を選ぶのが圧倒的に楽です。
  • 返却場所に注意: 基本的に自転車は「借りた店舗に返却」がルールです。そのため、今回筆者が走った「C1ルート」のような片道切符の旅ではなく、スタート地点に戻ってくる「周回コース」や「往復プラン」を組むのがおすすめです。
  • 公式情報をチェック: 県内のレンタサイクル店一覧は、以下の奈良県自転車利用総合案内サイトより確認できます。エリアごとに探せるので、旅の計画に役立ててください。

ならクルを巡って、自転車で歴史探訪しよう!

帯解寺と自転車

今回「C1 上ツ道ルート」を実際に走ってみて一番に感じたのは、歴史的な見どころの「密度」の高さです。数キロ走るたびに、国宝級の寺社や趣ある旧街道、昔ながらの街並みが次々と現れる。この「歴史の詰まり具合」は、やはり奈良ならではの魅力だと改めて実感しました。

そして、そんな点在するスポットを自転車で巡りやすいように繋いでくれているのが「ならクル」の良いところです。ただの移動が、青いラインを辿るだけで「歴史探訪」に変わる。見知らぬ土地でも迷わず、名所を効率よく回れるこのルート整備は、サイクリストにとって非常にありがたい存在です。

今回は平坦なC1ルートでしたが、奈良にはまだまだ個性的なルートがたくさんあります。山岳コースやさらに南のエリアなど、私も次は別の「ならクル」を制覇してみたいと思います。みなさんもぜひ、自転車と共に、新しい奈良の魅力を探しに出かけてみてください!