究極の一台かも。Pep cyclesってこんな自転車
自転車はときに移動手段として、
ときにレースでの機材として、
ときに旅の相棒として、
活躍する乗り物です。
そしていま写真に写っていたバイクは全て同じメーカーの同じモデルです。
2018年、「永く乗る」をコンセプトに誕生したPep cycles(ペップサイクルズ)は、時にツーリングバイクに、時にレースバイク、さらにはママチャリに……変幻自在に姿を変える自転車です。
今回は時代を牽引するノンジャンルバイクこと「Pep cycles」の開発者・海老根さんに開発秘話から遊び方まで、とことんお話をお聞きしました。
●海老根 拓さん
Pep cyclesを知るための3つのTips
まずPep cyclesとはどんな自転車なのでしょう。ポイントはこの3つです。
①街でも旅先でもオールマイティに走れる
街乗りはもちろん、旅先へのツーリングバイク、オフロードレース仕様としても対応できるスチールバイク。
②ジオメトリーのパターンはひとつ

Pep cyclesは基本のフレーム(ジオメトリー)が1パターン*。
まるで本場の博多ラーメン屋さながらの心意気。トッピングで自分好みの味にする豚骨ラーメンのように、購入後、乗り方に合わせてカスタマイズするのが大きな醍醐味のひとつです。
現在、NS-S1(完成車・クロモリフォーク)とNS-FS(フレーム・カーボンフォークセット)の2モデルが展開されています。
③性別・年齢を問わない個性的なカラー
こだわりのポップなカラーは老若男女を問わず、個性的な色味。グリーン(青緑)、イエロー、グレー、ピンクの4種類を展開しています。
僕の自転車は、遊びを拡張するツール
「自転車のジャンルって大まかにcompetition(競技)とleisure(遊び)に分けられると思うんです。ロードレーサーやマウンテンバイクはレース=コンペティションを前提としたバイクで、レジャーはツーリングバイクやグラベルバイクなどだと思います」
そう語るPep cyclesの生みの親・海老根さんに、改めてPep cyclesはどのカテゴリに属するのかを教えてもらいました。
「う〜ん、ノージャンル……オールパーパスバイク、ですかね」
根っからの自転車人が気付いた「永く乗る方法」
ジャンルレスな自転車・Pep cyclesは「永く乗る」と言うのがコンセプト。この考えは自転車と関わる中で、実体験として海老根さんが抱いた理想型でした。
「車体を増やすのではなくて、幅を広げていこうよ、と思うんです。」
小学生の頃に自転車と出会い、そこからどっぷり自転車漬けの人生を歩んだという海老根さん。20代の頃はMTBダウンヒルの全日本選手権にも出場、そして就職後は自転車メーカーでプロダクトの設計や生産管理を担当するなど、多角的に自転車と関わってきました。
「永く乗ること=永く使うこと」だと気付くきっかけとなったのは、刻々と変化するライフステージに伴い、変化し続ける自転車との関係性だったといいます。
「例えば20代でpepを買ってくれた人が、最初は競技志向メインや長距離ツーリングへ行って自由自在に遊び尽くしてもらって、そのあとに家族が増えたり、行動範囲が変わってきたり、持っていくものが増えたり、場所が変わったり。
乗る人の行動パターンや生活スタイルに合わせて変化できる自転車こそ、結果として永く使えると実感したんです」
車体を増やすのではなく幅を広げる。Pep cyclesのフレームが1種類で、完成車としても1種類のみの販売。それは無限の拡張性があるからこその見せ方なのでした。
こだわりが詰まった珠玉のリアエンド
約2年の構想を経て2018年4月に発売したPep cycles。その間に1番苦労したのは、ドロップアウトエンド(リアエンド)の設計だったといいます。
「構想段階から入れたい要素がいろいろあって。まずは両立てスタンドを付けたい、外装の変速とディスクブレーキに対応したい、キャリアを取り付けるためのダボ穴はマスト……。これをすべて実現する前提でエンドの設計をしました」
設計段階では厚さ2mmアクリル板で、実際に装着できるかを検証。何度も試作品を重ね、ようやく完成にこぎ着けたといいます。
「最終チェックとして長野県王滝村で開催されるSDA王滝にβ版のバイクで出走しました。このバイクで王滝のタフなコースを走り切れたら恐らくジオメトリも間違っていないし、販売しても問題ないだろうと思いまして」
無事、王滝完走を果たしたPep cyclesのβ版。ママチャリにもなるPep cyclesは、国内で最も過酷なレースといわれるタフなコースを走りきった実力者なのです。
ポップでありながら既視感のある懐かしいカラーリング
Pep cyclesのカラーはどれも単色ですが、説得力があり同時にワクワクしてしまう絶妙な色味も、心を惹かれてしまいます。
「最初に出した色は、グリーン、イエロー、グレーの3種類です。どれも実際に自分で塗料を調整させてもらって、パイプに塗装して決定しました」
グリーンは空や水の色、イエローは花の色、そしてグレーは塩ビパイプをイメージしたといいます。
「塩ビパイプはよく聞かれるんですけど、ほら、街中によくあるじゃないですか。けれど意識しないと気付けないくらい街に溶け込んでいる。”目立たない”というコンセプトで作ってみたんです」
そしてその後。追加で加わったカラーがピンクでした。
「このピンクは夕陽のイメージなんです。青とオレンジが混じり合った、ピンクのようなパープルのような、グラデーションに入っている何とも言えない色を表現したくて。光を色に落とし込むのは難しかったです」
Pep cyclesのカラーリングはどこか懐かしい──話を聞けば合点がいきました。どのカラーも何気ない日常の一コマから切り取った色味だったのです。
十人十色に染まるPep cyclesたち
それぞれ自転車ショップを通じて、色んなユーザーの元へ旅立っていたPep cyclesたちは、どんな風に活躍しているのでしょうか。
「この方はフォークとステムを同色にペイントして、よりオシャレに仕上げてますよ」
「あとちょっと面白かったのはMTB仕様に改造された方。乗っているMTBが壊れてしまい新しいフレームを注文中だったそうで、バラされたパーツを一旦pepに乗っけてみた、と(笑)」
「いきなり2台持ちされた方もいらっしゃって、僕も驚いたんですよ。1台はお子さん用に子乗せが付いていて、もう1台はレーシー仕様にカスタマイズされて」
「あとお店で会うたびにハンドルが違う方もいましたね。
ある時はフラットはハンドル。
ある時は、ドロップハンドルに。
曰く、色んなハンドルを試すのが楽しくなってしまったということなんですが。pepを通じて1人ひとりが新しい遊び方を発見してくれるのが、僕としてもすごく嬉しいし面白いんです」
Pep cyclesの由来は「トラック野郎」から!?
フレームのヘッドチューブに浮かぶスパイスミルのシルエットと「Pep cycles」の文字。このブランド名は、一体どんな由来なのか尋ねたところ「ちょっと恥ずかしいんですけどね……」と、はにかみながら教えてくれました。
「ブランドを立ち上げた頃、フレーム塗装をしているZ-worksのゼンさんとビルダーのイケダくん(Rew10 works)と一緒に飲んでたんですよ。ちょうど『名前どうする?』なんて話ながら。そのとき目の前で「トラック野郎」がやっていて、劇中でpepboyという名前のトラックカスタムショップが登場したんです」
「初めは響きから印象に残った単語でしたが、調べてみると「元気になる」という意味合がありました。さらに語源はコショウのpepper。「Pep cycles」には、スパイスが食材を活かすように、日常に刺激を与えるような自転車になってほしいという願いも込められています。」
「肉も魚も、素材の味を活かしつつ、おいしく仕上げるための香辛料を使いますよね。それと同じ発想で、自転車に乗っている人が幸せであって、自転車がそのスパイスになる。そう考えると、胸に抱いていた『永く乗る』というコンセプトとマッチしたんですよね」
グッズにニューモデルに……。今後の展開にも注目!
実は2021年現在、世界的な自転車ブームの影響を受け、製造拠点の台湾がキャパオーバー。しばらく新車の入荷が見込めないといいます。この記事を読んでPep cyclesが欲しくなってしまった方、大変申し訳ありません!
しかし、今から近い将来に向けてPep cyclesというひとつのブランドは大きな変化を遂げようとしています。そのひとつとして2021年夏にはPep cyclesオリジナルのフロントラックを発売する予定といいます。
「このキャリア最大の特長は金属製の輪が付いているところ。ここに紙カップ入りの飲み物が入るんですよ。私自身コーヒーが好きなものでよくコンビニなどで買うのですが、紙カップに入っているタイプだと『あっ、自転車に置くところない!』って困ることも多くて。なので作っちゃいました」
さらに現在発売中のPep cyclesオリジナル手ぬぐいは、偶然出会ったイラストレーター・ダニエルさんが描き下ろしてくれたイラストを全面にプリントした特製品。ツーリングやキャンプでも重宝するアイテムで、個性がキラリと光るデザインとなっています。
バイクでのキャンプにぴったりなネルシャツ・Bike&Camp shirtもリリース。自転車やキャンプ、もちろん普段着でも使いやすいデザインのネルシャツは、スナップボタン付きのサイドボタンがポイントです。
そして今後、Pep cyclesとして新たなバイクの構想も。
「次はpepMTBを作りたいですね。今のジオメトリーでもMTB仕様にしても乗れなくはないのですが、やはり物足りなさがあるんです。せっかくならスパッと切り分けてニューモデルを作りたいなと。そう考えるとMTB型のバイクがいいかなと」
日々を一緒に冒険してくれる自転車です
一人の男が、自転車と関わり続ける中で見つけた「永く乗る」という答え。彼の理想型を形にしたバイクは、今この瞬間も多くのサイクリストを旅先に、勝利に、家に運んでいます。
最後に聞いてみたのは、これからの自転車の遊び方について。海老根さんはこんな風に教えてくれました。
「マウンテンを中心に楽しんでいた僕からすると、今のグラベルブームも新しいというよりも”元に戻っていく”という感覚に近いかも。Pep cyclesはサイクリストの個性を引き立てるスパイスであり続けたいです」
日常・非日常に問わず彩りを添えるPep cyclesは、もしかするとこの時代の究極の1台なのかもしれません。