気張らず、自分らしく走れる、スチールのグラベル
ロードバイクといえば、平たいフレームに、大きなブランドロゴのイメージがあるかもしれません。ロードレースでも、カラフルなカーボンバイクを見ますよね。
一方でスチールのバイクは、通勤通学、街中を走る「気軽な相棒」として愛用する人も少なくないでしょう。
かく言う私も、細身のスチールバイクに乗っています。もともとは、アルミフレームのロードに乗っていましたが、クラシカルな見た目に惹かれて乗り換えました。
いつまでも気楽に乗れる相棒、ヴィゴーレ
私の愛車は、グラベルロードの「MLvigore(通称ヴィゴーレ)」。レイノルズ853というスチール(マンガンモリブデン鋼)のフレームです。必要なお手入れをして、愛情をもって乗ってさえいれば、劣化を防ぎながら使い続けられる金属フレーム。
トレンドが次々に変わるカーボンフレームに対し、金属フレームは「変わらないこと」がいいところだったりしますよね。個人的には、結婚、出産と、ライフステージが変わっても、いつまでも気楽に乗っていける気がします。
細身なシルエットには、ツヤのあるブリティッシュグリーンのベースカラー、ゴールドのブランドロゴやモデル名がデザインされています。
トップチューブには、グラベルロードらしい、荷物をつけられるダボ穴がポツポツと3カ所。さらにダウンチューブの下側にも、ボトルケージがつけられるんですよ。丈夫な金属だからこそ、安心してたっぷり荷物を載せられちゃいます。
話は戻りますが、ヴィゴーレは38Cの太いタイヤなんかも履かせられる、ロングライド向けグラベルロード。「MULLER(ミューラー)」というブランドで生まれました。
金属バイクのブランド、MULLER
MULLERは、2010年に発表された三重県のスポーツバイクブランド。主にロングライドやキャンプツーリングに向いたロードバイク、グラベルロードなどを手掛けています。
現在は完全受注生産で、基本のフレームセットからお客さんにあわせてパーツなどを組み立ててくれますよ。
スポーツカーをヒントにした、金属美のバイク
フレームは、すべて金属。カーボンフレームはありません。さらに言えば、「金属らしい」見た目をしています。上品なツヤ、シックなカラー。ただ無機質というより、溶接面まで滑らかなフォルムに、温かみを感じるかもしれません。
金属フレームで組まれるモダンなバイクは、アートを所有するように、きっと心を満たしてくれるでしょう。
「寿命のない金属」を選んでいます
金属の中でも、MULLERはスチール、チタンに絞って、フレームをつくっています。どちらも、サビや過度な紫外線に気をつけていれば、「寿命がない」とも言える金属。お手入れ次第ですが、生涯使えるでしょう。
何十年もオーナーの良き相棒でいられるよう、必然的に選ばれた金属なのかもしれませんね。
ここでMULLERが扱う金属の種類と、代表モデルを紹介します。
●クロモリ(クローム・モリブデン鋼)
スチールでもっとも有名なのは、伝統的なクロモリでしょう。少々重さはあるものの、加工しやすく、溶接部分に細かな装飾が施されることもあります。
MULLERでは、「MSP」、「ML725」などがラインナップされています。
●マンガンモリブデン鋼
こちらもスチールの仲間。クロモリと似た性質で、細身のフレームで仕上げられることも多いです。
MULLERでは、先ほど紹介した「MLvigore」などがあります。
●ステンレススチール
ツヤっとした光沢が美しいステンレススチール。溶接が難しいとされ、スポーツバイクでは珍しいかもしれませんね。MULLERは、高剛性も確保しながら、熱処理でフレームを完成させています。
ロードの「M465」、「M630」などがラインナップ。
●チタン
金属の中でもかなり軽量で、サビにくい素材。金属のデメリットをおおむねカバーした金属、とも言えるでしょう。ただ溶接が非常に難しく、ブランドの高い技術力が試されます。
MULLERでは、ロードの「MTi64」、グラベルのようにも乗れるロード「BMJ」などがあります。
MULLERのちょっと変わった歴史
フレーム素材へのこだわりが強いMULLERですが、自転車ブランドとしては、ちょっと変わった歴史を歩んでいるんですよ。いくつかのできごとを紹介します。
自転車業界からのスタートじゃなかった
MULLERを立ち上げたのは、手塚典子さん。大学で彫刻を学び、ゼロからなにかを生み出したい想いで、三重でオリジナルの自転車を発表しました。上の画像は、開発風景です。
自転車ブランドと言えば、競技経験者が立ち上げることも多いのですが、手塚さんはレース出身ではありません。
ただ、アートな目線から生まれた手塚さんのバイクは、バイクに普遍性を求める人たちを中心に、着実にファンを集めているんですよ。
有名人?!ザック・レイノルズさんがジョイン
MULLERを語るうえで、はずせないもうひとりが、ザックさん。ザックさんはもともと、ロードレースに出るアスリート。母国オーストラリアで日本語の勉強をしていたこともあり、社会人になってから来日したそうです。
有名自転車ブランドの代理店に勤めた経験もありましたが、バイクの輸入に携わるうちに、自分でつくったバイクを販売したいと思うようになり、以前から繋がりのあったMULLERのブランドマネージャーに。テレビ番組に出演するなど、広報活動もしながら、手塚さんと二人三脚でブランドを育てています。
アートを追求する手塚さんと、アスリートのザックさん。正反対に見えますが、自分が納得できる自転車をゼロからつくりたい想いは一緒です。
コンセプト色の強いモデルも、つくりました
寿命のない金属から生まれるフレーム。今もブランドコンセプトは変わらず、新しいバイクを開発し続けています。
なんと、コンセプトを振り切って、子ども向けのチタン製ファーストバイクも開発してしまいました。MULLERの、金属への愛に脱帽。
海外にもファン?SNSでたどり着く人も
日本の小さなブランドMULLERですが、SNS経由のオーダーも少なくありません。中には海外から問合せをする人もいるんですよ。
「一生モノ」の素材でつくられる、シンプルで美しいバイクの写真。購入したオーナーたちの、気張らないサイクリングの投稿。それらが、カーボンバイクを乗り尽くした人などにも刺さっているようです。
実際、以前からカーボンバイクに乗っていた私の父親も、年を重ねるうちに「流行に左右されない、ずっと大切にできるバイクがほしい」と思い、SNSなどを探しているうちに、MULLERを見つけて購入したと聞きました。私自身も、父の影響でヴィゴーレに乗っていますが、何年経っても変わらず美しく、どんどん愛着が増しています。ほかのバイクも買うことはあるでしょうが、ヴィゴーレは手放さないつもりです。
MULLERのバイク、ここで出会えます
MULLERの工場は三重県桑名市。ショールームも構えているので、お近くの人は電話や公式サイトから予約をして、ぜひ足を運んでみてください。定期的に、試乗会も開催されていますよ。
全国に正規ディーラーもあります。ただ常時展示されていることはほとんどないので、事前に問い合わせておくと安心ですね。ショールームから試乗車を借りることもできます。
また関東を中心に、自転車関連のイベントに参加していたり、ポップアップショップを開いていることも。イベントなどの情報は、公式サイトで随時更新されているので、見てみてください。
日本のブランドが生み出す、寿命のないバイク
「寿命のない金属」にこだわるMULLER。工業製品としての、金属フレームの美しさを最大限に引き出したバイクで、国内外のファンを着実に増やしています。私自身、アートを手にしたように、所有欲を十分に満たしてもらっています。小さなブランドながら、購入後の満足感は、ずっと続くと思いますよ。
トレンドのバイクに物足りなさを感じたら、ぜひ、一生モノのバイクを検討してみてくださいね。